第136回 家庭医医療セミナー in いわき ~実践家庭医塾 Online~ 2023年2月

令和5年2月16日(木)、第136回 家庭医医療セミナーを開催しました。

今回は、当院の総合診療科の専攻医、永井拓先生が症例を発表しました。

~患者さんの情報~


【症例】88歳 男性
【主訴】胃痛 食思不振 ふらつき
【現病歴】一か月前から胃の調子が悪くなりはじめ、嘔吐まではいかないが食後に吐き気がするようになった。
【既往歴・併存症】(ご家族より聴収)
・80歳ごろ~アルツハイマー型認知症
・3、4年前に胃がん(かかりつけ医から高次医療機関に紹介されたが、結局手術はしない方針となった)
・脂質異常症、高尿酸血症
【生活歴】
 妻と二人暮らし、長男は同じ市内に在住。要支援1、ADL全自立

「妻からの話」
胃がんと診断され手術を勧められたが、年齢的に難しい面もあり、手術はせずにかかりつけ医で経過を見ていた。かかりつけ医に常に相談していたが「仕方ない」の一点張りで、どこかに紹介状を書いてもらうようお願いしても、書かないと言われてしまった。(紹介してもどこも診てくれないだろう、といった意味で言われた)

「長男からの話」(本人・妻退室後、長男から個別に面談の希望あり)
理想はがんがなくなり症状もなくなることだが、もうそういう段階でないことは理解している。今回症状が出るようになり、かかりつけ医の対応もいまいちなので、母の不安を相談する場所がない。突然受診してこんなことを言うのは迷惑なことはわかっているが、今後の方針について相談させてほしい。

妻・長男共に、今後の方針について具体的にどうしたらいいのかわからない様子。
ひとまずかかりつけ医以外の先生にもお話を聞いて今後どうしたらいいのかを聞きたいようだった。

~来院時の診察~


ディスカッション①

・患者、患者家族に今後どのように介入していきますか
・他にどのような情報を収集すればいいでしょうか

●患者、患者家族に今後どのように介入していくか。

・家族が不安になる要素はなんだったのか?急を要して聞く必要があった。
・家族ケアのウエイトを高くする。
・現状を確認しつつ、手術をしなかった場合や今後の見通しについて考えていく必要がある。
・本人の意思を確認することが難しいため、奥さんや長男といった家族ケアを中心となった介入が必要。

●他にどのような情報を収集すればいいか。

・患者さんやご家族はどういった方だったのか、ご家族の関係性も気になるところ。
・家族がどんな考えを持っているか聞く。
・元々の、かかりつけ医と家族との信頼関係はどうだったのか。
・そもそもがんと分かってからのこれまでの経緯を詳しく聞きたいと思った。
・がんについてどこまで告知していて、どこまで理解しているか。
・緩和ケアをやっているよということでかしま病院に来た目的とは?


初回外来後の経過です。

ディスカッション②


・本症例で輸血はどの程度まで許容されるのでしょうか
・長男さんにはどのような言葉をかけますか

● 本症例で輸血はどの程度まで許容されるのでしょうか

・輸血は、血液製剤でボランティアの協力で得られていて、不足しているものであるので、こういう形で使いたくないという気持ちがある。輸血以外で緩和が得られなかったのか。輸血とは本人と家族にとってどんな意味を持つのか。
・緩和ケアを選択してかしま病院に来たのであるから、家族と話し合いをして考えのすり合わせをし、ケアの拡大をしていく。輸血をすることでケアの質が削がれるのでやらない。治療行為は絞るべきだと思う。心の安らぎを亡くなるまで続けていけるように、ケアに99%の力を、治療は1%にしていく。
・輸血は、症状改善が乏しくなってきた時が辞め時。
・輸血は賛同しない。近年は輸血に対する認識が軽くなってきているので、輸血の価値を考える必要がある。輸血のメリットをしっかり説明してから治療をする。

●長男さんにはどのような言葉をかけますか

・かしま病院はかかりつけ医のような何もできない一点張りじゃないから来たと思う。かしま病院を選んできたということは、患者さんや家族に信頼されているのではないか。
・医師と家族との認識の差があるので、家族と話をする時間を増やし、共有しながら、最適な緩和ケアの方法を考えていく。
・息子にどういう声掛けをしていくのか?となったときに、自分だったら、「いつまでやるのか?」と聞いて、輸血をしてもしなくても変わらないことを、言い方・伝え方を考えて、今後の治療をオーダーメイドしていくと思う。

~その後の経過~

・長男さんとの話し合いの結果
・輸血についてはメリットが乏しく、本人の負担が大きいようであれば、これ以上の輸血は希望しないこと
・急変時の対応は変わらずDNARのままで変更はしないこと
・退院後は施設に入所し、そのまま施設で看取ること
上記の方針で合意を得た。
退院して10日後、施設内で患者は穏やかになくなった。


今回、ディスカッションの内容にもあった、輸血について永井先生がまとめたスライドを紹介します。

~まとめ~


最後に、葛西先生からの講評です。

皆さま、積極的なディスカッションありがとうございました。永井先生もプレゼンと、この患者さんと家族のケアをしているとのことでお疲れさまでした。
本人が認知症でどんな気持ちなのかわかりたいなと切に思います。こういうケースで、関わってないかかりつけの先生たちはどんな思いでやってきたのだろうか。患者さんや家族をよくケアしていきたかったという気持ちでやってきたんじゃないかと思います。
かかりつけ医が、仕方ない、仕方ないの一点張りだったところが切ない感じもします。どんな風にしたかったのかな、どんなケアができたのかな、というそんな話もできるような、かかりつけ医と病院の総合診療科の関係になっていくといいのかなと思いました。
なかなか大変だと思いますが、同じケアをする仲間としてできたらいいなと思いました。ありがとうございました。

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