第135回 家庭医医療セミナー in いわき ~実践家庭医塾 Online~ 2023年1月

令和5年1月19日(木)、第135回家庭医療セミナーを開催しました。

今回は、東京慈恵会医科大学附属病院・初期研修医2年目の永島弘捺先生が症例発表を行いました。

【性格】
・患者本人は気を遣う性格で、自身の意思や希望を話すことが非常に少ない。
【夫との関係性】
・見合い結婚で出会って7日で結婚した。結婚時から夫婦関係が破綻しており、旅行には一度も行ったことがない。
・夫は昔ながらの考えを持っており、家事や育児、夫の祖父母の介護まで全て本人がやってきた。
・「掃除しろ」「飯作れ」「風呂わかせ」と言葉の暴力があった。夜中に飲みに出かけるのが常だった。
・本人が乳癌を患った時、治ったらまた働かされると思うと、家に帰るのが憂鬱だった。
・1年前から夫の顔を見ると、もやもやしてご飯の味がしなくなった。自然と「生きているのが嫌だ」と思うようになった。
【子供との関係性】
・本人と子供たちとの関係は良好。
・長男は同一敷地内に住んでいるが、夫の関係性が悪いためほとんど交流がない。
・長女と夫の関係性は良く、積極的に交流を持っている。

家族カンファレンスにてそれぞれの思いを聞きました。
【本人の思い】
・積極的治療は望まない。
・夫のことを考えると、自宅に帰ることは憂鬱。だけど家は好きだから最後は自宅で過ごしたい。
・「体が衰えて毎日生活するのも辛いのに、草むしりや家事をしなければならないのが大変。夫や息子にそういったことをやってほしい。自分は少しでもいいから休みたい、ただそれだけです。」と唐突に自分の想いを伝える場面があった。
【夫の思い】
・「調子がいいときは動ける」「体は動かした方が本人のためだ」など、これまで通り家事をしてほしいと思っている様子。
・主治医、SWからの説明で現状をようやく理解し、放心状態になる場面があった。
・今後の食事について尋ねたり、病状への理解を示す言葉が見られた。
【長女の思い】
・自宅退院を希望。妹ががんで亡くなった時、終末期のケアに携われなかった後悔があるため。
・父は母の病気を知ってから態度が良い方向に変わり、ある程度のことは一人でできるようになった。
・長女宅に連れて帰ることも考えたが、ヘルパーなどを利用しながら今まで生活していた自宅に戻った方が、本人も気が楽だと思う。

ディスカッション①
現状の患者さんにとって「自宅退院」は最善の選択か(関係性の悪い夫が主介護者となり、精神的影響から症状増悪の可能性がある。)。

事例の補足・・・家族には癌性リンパ管症の予後は一般的に3カ月程度という話をしている。本人は余命は知りたくないとのことで未告知。

本人から家で過ごしたいという言葉があったということで、どうすれば自宅で過ごすことができるのかを議論した。まず夫婦の関係性、夫と二人での生活でどのようにストレスを軽減していくかが大きな課題になる。長男がどのくらい関わってくれるのか、長女は夫婦の仲を取り持ってくれるのかという部分も重要。また、今後ADLが落ちていくことが目に見えている中で、ヘルパー等をどのくらい使えるのかという部分は気になる。最初から家族カンファに全員呼ぶのは難しかったと思うので、今後長男なども含めて話をする良いきっかけになったのではないかと思う。長女が次女をうまく看取れなかったという経験もあったので、長女を立てながらみんなで協力してケアできる環境を整えることも腕の見せ所だと思う。

余命を踏まえて、最後の時間を過ごすのにはどこがベストなのかを本人に聞き直すことが大事だと思う。家で過ごしたいと言うのであれば、夫に一時的に長女宅へ引っ越してもらうことも考えられる。(以下当事例の担当医より)今回事例を振り返ったが、本人があまり自分のことをしゃべらないこともあり、思い込みで動いてしまった部分もあったので、もっと対話を重ねる必要があると思った。長男との関係性は良くなってきており、夜の服薬チェックなどは長男がやっており、可能な範囲で協力してもらっている。本人も夫ではなく長男にやってもらったほうが嬉しいという話があった。

最善の選択となると難しいが、ターミナル期なのでそもそも他の選択肢が無い、もしくはいばらの道ということであれば、家に帰るのが最善なのかもしれない。本人がどうしても家に帰りたいという希望がある、または家族が介護に協力する体制があれば家で生活できると思うが、それ以外の選択肢は難しそうだと思った。

ディスカッション後は、事例の続きの発表です。

【本人の様子】
・自立歩行可能だが、嗄声や呼吸苦など病状の進行あり。
・火の不始末や見当識障害など認知症の進行も見られる。
・「病状が悪化しても今後は自宅で過ごしていきたい。入院ではなく最後は自宅で過ごしたい」と話される。
・一方で「特に困っていることはない」と相変わらず口数は少ない。
【夫の様子】
・積極的に介護に協力している。
・食事、服薬管理、掃除など日中のほとんどの介護を行っており、服薬管理の一部を長男に任せるなどして負担を分散している。
・本人との会話は少なく、感謝を示されないのが悲しい。
・本人の病状の進行により、自身の睡眠がとれなくなってきたなどの負担感あり。今後の介護に不安を感じている。
【長女の様子】
・本人と一緒に入浴するなど献身的に介護している。
・火の不始末やトイレに閉じこもってしまうことがあり、夜間も気を張っていなければならない。今後も家族だけで対応できるのか不安があるため一時入院させてほしいとの希望あり。

ディスカッション②
・最後は自宅で過ごすとして、今後どのようにいていくのが良いか(今後の方針やその実現に必要なものは?)。
・家族の負担を減らすには、医療者としてどのような介入をすべきか。

長女は家で看たいと言っていたが心が折れかけており、夫もかなり介護に疲れてしまっている。少し力みすぎたのではないかという意見が出た。また、見通しの共有が大事だと思う。一般的に予後3カ月という話をしているが、先が不透明なこの状況で、いつまで介護が続くのかという精神的不安が根底にあるのだと思う。終わりが見えなくてもいい、根詰めなくてもいいという声かけは大事だと思う。
完璧な介護はできないので、どのくらいの介護を目指していくかを話し合う必要がある。長男や長女の家族、例えば孫などの協力が得られるのかは確認したい。夜間の不穏、火の始末などについては薬物的介入の余地はありうるし、ケアの仕切り直しという意味でレスパイト入院は可能という話が出た。ただ、入院中に仮に亡くなってしまった場合に、長女さんが不完全燃焼になってしまう懸念もあるので、入院前にあらかじめ期限を付けた上で、短期間の入院とした方が良い。火の不始末についてはIHで対応という意見も出た。

夫や長女がかなり疲れていたたため、レスパイト入院という意見がでた。夫や家族の思いを聞く場面が少なかったと感じた。夫や長女に、今回の緩和ケアについてどういう目標を持っているのか、本人に対して思うことがあったのかなどを聞いてみたい。その上で家族全員が目標を共有できると良い。予後について話をした際に、夫は分かりました覚悟しますと言っていたが、長女はどうなるのか不安になっていた。今後どういう症状が出るのか、最後はどうなるのかという具体的な情報を共有することが必要だという意見が出た。

事例発表は以上になります。ありがとうございました。

発表者の永島先生より事例の感想です。
今は在宅生活の調整を図る目的で、2週間を目安にレスパイト入院されています。訪問診療自体初めて同行させていただだきましたし、今回のように家族関係が難しい症例にも初めて関わり、ご本人だけでなくご家族もケアの対象ということを実践から学ぶことができました。今後は、患者本人だけを見るのではなく、家族や関係者にも精神的な配慮をしていける医師になりたいと思いました。ありがとうございました。

最後に葛西先生からの講評です。
皆さんありがとうございました。永島先生、プレゼンテーションありがとうございました。グループディスカッションでも話を出したんですが、こういうケースを見ると、平野啓一郎氏の「マチネの終わりに」を思い出しますね。本人と夫、その家族の過去は変えられないと普通は思うわけですが、これから起こりうることによって、過去に起こったことや過去の持つ意味合いが変わっていきます。過去を水に流すわけでなく、新たに役割を決めて、それを果たしていくことができればいいのではないでしょうか。医師が指示するのではなく、家族の中で話し合って役割を決めてやってみる。ちょっとうまくいかなくてもまた修正していける。そういう家族になっていってくれたらいいなという願いを持つのが家庭医なのではないかと思います。場合によっては、家族にも「マチネの終わりに」を見てもらというのもありかなと思います。今日はありがとうございました。

家庭医療セミナーでは多くの方のご参加をお待ちしております。興味をお持ちの方は下記までご連絡ください。

かしま病院地域連携課
TEL:0246-76-0350
Mail:kashima.hospital@gmail.com

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