2021年7月29日(木に、恒例の家庭医療セミナーがオンライン形式で開催されました。
今回も、7月から当院で研修中の2名の研修医が事例発表を行いました。
事例とディスカッションの内容についてご紹介いたします。
事例発表① いわき市医療センター研修医 川又 諒 医師
「麻痺を伴わない意識障害の一例」というタイトルで、高齢女性の麻痺を伴わない不穏、意識障害を呈した症例について経験した事例を発表しました。
患者は『水野美子さん(仮名)』で69歳女性、主訴は不穏、意識障害。7月12日19時までは問題なく会話できていたが、13日午前4時頃起床するも「ハイ」以外の返答が出来ず不穏気味であったため救急要請となった。
上記以外に、頭部CTや頭部MRIでは占拠性病変なし、心電図も正常という結果が出ている状況で、病症の鑑別含め今後患者さんにどのように対応していくかをグループごとにディスカッションしました。
ディスカッションの結果、
・低Na血症、低K血症により電解質異常が考えられるため、水分制限をする。
・精神疾患の投薬状況について、オーバードーズがなかったか。
・夫が統合失調症ということで、患者さんに精神的負担がなかったか。
という意見が挙がりましたが、実際に川又医師も「水中毒」を疑い入院加療を行ったそうです。
入院後は休薬と水分制限により、入院4日目には意識レベルも回復し問題なく会話も可能となりました。考察される病態としては、向精神薬の副作用や長期使用による「口渇の亢進」(他、ストレス、うつ病、夏の暑さも)により過度な飲水が習慣化し、その結果希釈性低Na血症となったのではとのことでした。
しかし、入院加療後に意識レベルも改善し退院可能となりましたが、患者が入院したことで夫の病態が悪化し入院してしまったため、帰宅が難しくなってしまっているとのことでした。医学的な問題だけでなく患者背景への対応も必要ということで発表を締めくくりました。
事例発表② 福島県立医科大学研修医 土屋 雄一郎 医師
「健診で見つかった無症候性不整脈に関して」というタイトルで、無症状の方が健診にて数秒間の洞停止をたまたま認め、専門機関と連携しながら治療介入し現在も経過をみている一例について発表しました。
患者は70歳男性で、市の健診の心電図で洞性徐脈を指摘されていたが経過観察。特に自覚症状はなく、2017年10月の健診の心電図でたまたま洞停止が見られました。ペースメーカーは相対的適応であったが、無症候性であるため3か月程度の間隔で定期検査としていました。
しかし、2018年2月頃からめまいや立ち眩みの症状が出現し、3月にカテーテルアブレーション目的で大学病院へ紹介し、5月に実施。その後、ペースメーカーが必要な状況のためいわき市の専門機関を紹介されました。本人は自覚症状がなくPMI施行することには葛藤がありましたが、2019年3月、担当医師の説得に応じてPMI施行となりました。
福島県のレセプト情報を基にした地域ごとのデータを参照し、
●福島県において、なぜ震災によって心房細動の有病率が上がったのか?
●(県内の)地域によって差が生まれる背景は何か?
についてディスカッションを行いました。
ディスカッションの結果、
・震災による食生活の変化やストレスの増加が影響したのではないか。
・若い人が減少し高齢者が増加したという母集団の変化の問題。
・震災に関してのスクリーニング効果の影響。
(今まで検診を受けてなかった人が受けたことも可能性としてある。)
・震災後のプライマリ・ケアの崩壊により、基礎疾患の管理が不十分だった。
という意見が挙がりました。
葛西先生の講評では、川又医師、土屋医師の発表は異なる切り口で、ディスカッションについても、患者さんの症例のケースを色々な背景から考えたり、かたや福島県全体のマクロな視点から見て統計を基に考えたりと面白かったとのことです。
次回の家庭医療セミナーは9月30日(木)の予定です。
興味のある方は、かしま病院地域医療連携課までご連絡ください。
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