第130回 家庭医療セミナー in いわき~実践家庭医塾 Online~ 2022年6月

令和4年6月16日(木)、第130回家庭医療セミナーをオンライン形式で開催しました。

今回はいわき市医療センター初期研修医の小林誠先生が症例を発表しました。

症例

 患者さんは89歳の男性で、高血圧、心房細動、COPD、心不全にて当院かかりつけの方です。
 呼吸困難で当院に緊急搬送され、右気胸の診断を受けA病院に転院しました。その後、気胸は改善し、自宅退院となりました。しかし、退院後も本人の調子はすぐれず、当院とA病院を受診していました。呼吸苦・倦怠感が出現する回数が増え、当院に緊急搬送されました。

生活歴

 家族構成は、本人を含めて妻、娘夫婦、孫の7人で同居しています。市内には次女が住んでいます。
 介護度は要介護1か2で区分を変更中でした。

ディスカッション①

ディスカッション後のグループでそれぞれ意見が出ました。

 全体的なアセスメントを行って、急性期で治療を行っていくのはどうか。
ご家族と本人がどこまで話が進んでいるかわからないが、ACPについても話ができていればいいと思う。
 追加で何の情報を聴収するかについては、今までかしま病院の外来にかかっていた方なので、治療を行っていく中で、どのようなニュアンスお話をしていたか、7人の家族関係について、年齢的に奥さんも高齢だと思うので、奥さんの健康状態はどうなのかを聞いてみたい。ご本人自体もどのくらい動けた方なのか、実際家族内での役割はなんなのか、ご本人に関する情報を聞きたい。疾患に対するイメージについても医療者の解釈と本人や家族の解釈が違っているというケースが多々あると思うので、本人や家族側の病気や疾患に対する解釈についても聞いてみたい。

治療の方針については、根本的な治療が今だったかどうかという見直しが迫られているかなと思います。今回、呼吸苦とだるさもあったとのことで、年齢的にフレイルとかそういった問題も絡んできてしまっているかもしれない。ACPのこれからどうしていきたいか、日常生活、退院後の話も見据えていくと、日常生活どのくらいのADLだったのか、介護はどのくらい必要だったのか、今後必要になりそうなのか、家に帰ってどのくらいサポート増やせるのか、今後入院を減らしていけるのか、家族が不安に思っていること、医療者側にしてほしいこと、今後の関与できる部分、自分たちができそうな部分を聞いてくるということが必要だと思う。

 小林先生としては、患者さんはもともとあるCOPDの進行と心不全の急性憎悪と考え、慢性的な経過であり、積極的に治療介入してもおそらく長期的に予後を改善することはできないとの意見でした。
 また、ご家族が患者さんの状態を理解していないと、苦しくなるたびに家族が救急要請をしてしまうのではないか?ということでした。


 救急搬送された際に、同乗していた次女に対して、患者さんの現在の状況と今後の理療方針に関してICを行ったのですが、話していくうちに、患者さん家族が、患者さんの病態が悪くなっていることを理解していなかった点、患者さんが本人は最期は自宅で過ごしたい願望が強いことがわかりました。

 その後、患者さんはご家族の救急要請により、当院に搬送されました。


ディスカッション②

 終末期に関してご家族の理解を得るのは難しい話で、ご家族がどのくらい理解されているかどうかを確認した上で、少しずつ話を積み上げていければ話が早いが、今回の症例のように急な場合は、すぐに終末期と言われてもなかなか理解はされないので、ある程度受容していただく時間が必要かなと思う。今回の入院をきっかけとして、こちらから話を切り出して、少しづつ話を詰めていきながら、今後は外来ないし訪問診療などでの対応の内容を詰めいていければいいかなと思う。本人ないしご家族が中心になるので、両者の考えを聞きながら、どんなことが必要かカンファレンスなどを開いていければいい。

 家族の理解をどうやって得られるようにするのかというところは、患者さん本人の意見が一番大事で尊重すべきということで、説得してどうこうするというよりも、正直にご本人の状態の情報提示をすることが大事なんじゃないか。今回の場合は要介護1とかで、ある程度ADLが保たれていた人だったので、体調が悪くなったイメージが付きにくかったんじゃないか。今後どうなっていくのかというイメージを家族に持たせてあげることを手伝うという解釈で説明をすればうまくいくんじゃないか。入院を機にACPを進めるのはいいきっかけだと思う。家族だけでACPの話を進めるのが難しいという場合では、医者が私ノートなど道具を使いながらいろいろサポートが必要かなと思う。ご本人がどうしたいかということが大事だと思うが、家族を含めた苦痛という全体の苦痛のケアという風にとらえると、本人が家で死にたいと思っていても家族からすると、そんなの不安だよ、心配だよというのを私たち含め考えていかないといけない。自宅で死ぬことが実現可能なのかそういうことも親身になって検討していかなければならない。

 どう死んでいくのかというのがイメージできずに、救急や予約外の診察になる。イメージがつくようなアプローチや不安にこたえるアプローチをしていくしかない。パンフレットを使ったり。どう説明しても分かり合えない、理解できないケースがあるので、文句を言われない範囲で答えを見つけていく。

 葛西先生からの講評です。

 この患者さんと家族のケアに関しては、非がんの緩和ケアに含めていくべき。どこまでの治療的介入をしていくのか、それともコンフォートをどのくらい重視するのかを家族本人と話していく必要があると思います。昨年くらいから、諸外国で言われるようになったのは、緩和ケアの中でさらにCOVID-19になった場合に経過がもっと早くなるので、治療的介入についてどこを目指していくのかを、家族本人と早くに予測し前もって話し合っておく必要について、緩和ケアの専門家は警笛を鳴らしています。患者さんがCOVID-19にかかる、かからないという差し迫った状況では日本はないとは思いますが、心不全の緩和ケアを含めたケア、これから何がおこりえるかかという情報提供、そういったのが必要になってくるかと思いました。

家庭医療セミナーでは多くの方のご参加をお待ちしております。興味をお持ちの方は下記までご連絡ください。

次回開催予定:7/21(木)19:00~20:00

当セミナーへの参加につきましては、
 かしま病院地域連携課
  TEL:0246-76-0350
  Mail:kashima.hospital@gmail.com
までお問い合わせください。

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