第129回 家庭医療セミナー in いわき~実践家庭医塾 Online~ 2022年5月 

令和4年5月26日(木)、第129回家庭医療セミナーをオンライン形式で開催しました。

今回の症例は、いわき市医療センター初期研修医の緑川雄亮先生と東京慈恵会医医科大学初期研修医の辻野恵先生が一つの事例を共同で発表しました。

初めに、緑川先生と辻野先生の自己紹介です。

 

症例発表

77歳女性で主訴はめまいと頭痛です。

入院3か月前:めまいを主訴としてめまい外来を受診しました。

入院1か月前:めまいが出現し、目も開けられない状況となり外来受診。本人に入院を勧めるも、本人が希望せず帰宅されました。

入院当日:夫のケアマネが自宅に訪問したところ、頭部の違和感と震えを訴え体動困難となっていました。夫のケアマネが救急要請し、同日入院しました。

【生活歴】

夫との2人暮らしです。息子さんは遠方に住んでいますが、毎日連絡を取っています。

本人のADLは自立です。夫が骨折で寝たきりになり、週に数回の訪問介護と訪問看護を利用していましたが、ほとんど本人が介護をしていました。

以前受診した際に医師に迷惑をかけて不機嫌にしてしまった等の発言があり、医療者の発言や姿勢にとても敏感な様子が見受けられました。

初診時はバイタルに異常なく、車いすに乗り、苦悶様顔貌で閉眼していました。神経学的異常はありませんでした。

ここでブレイクアウトルームに分かれてディスカッションです。

 

ディスカッション後のグループ発表では以下ような意見が出ました。

病気や入院をきっかけに、実は介護状況がうまくいっていなかったことが判明するケースは多々あるので、これを機に介護の体制を見直すことが重要。

本人が一人で介護することになった経緯も探った方が良い。本人の希望なのか、それとも夫の希望なのか。息子はどう思っているのか。

これからの環境の整備という意味も含めて、夫の主治医にも連絡とって、情報共有と連携をしていくことも重要。

めまいの原因は介護疲れではないかという話が出て、介護の構造をどうすべきかという点に焦点が当たった。本人がめまい発症に至った根本の原因を探って、場合によってはそこを変えていく必要があるのではないか。

 

事例の続きです。

【入院後の経過】

入院日の検査所見では有意な病的所見がなく、介護による慢性疲労として介入を開始しました。

その後本人、息子、ソーシャルワーカー、医師で今後について話し合いを開始しました。徐々に表情が柔らかくなり、食事量も増加していき、6日目には退院の希望があり、自宅に退院しました。

ここで2回目のディスカッションです。

ディスカッション内容の発表では、以下のような意見が出ました。

医療者として医療的介入から介護環境なども調整していくが、本人や家族の気持ちを配慮しながら進めていく必要があると思う。

ケアマネから訪問診療開始したいという話があって実際に介入しても、本人が訪問診療を希望しないというケースがあった。周囲の関係者が動こうとするケースは多々あるが、実際に生活を共にしていくのは本人ないしご家族なので、決定する過程は本人や家族が主体者で、医療者側はそれをサポートしていくのが役割。困っていること、不安、ストレスなどを吐き出してもらいながら一緒に考えていくことができれば、こういったことを繰り返さないようサポートできるのではないか。

介護疲れによって症状が出たということだったが、本人は夫を介護したいという希望があったので、そこは大事にするべき。かといっても全部抱えるのは難しいので、継続が可能なように家族も巻き込みつつサポートをしていくことが大事なのではないか。

まずは方針を決める必要がある。当院との関わりは今回限りで元の主治医に見てもらう方法と、今後も継続的にかかわっていく方法。前者の場合は、主治医と夫のケアマネに情報提供して調整してもらう。後者の場合は、元の主治医から情報を引き継いで、本人や家族の意向を聞き取りつつ今後の生活について話をしていくことができる。

 

最後に、発表者のお二人からこの症例のまとめです。

葛西先生からの講評です。

「どうもありがとうございました。このケースをディスカッションして、ぱっと頭に浮かんだのはアーサークラインマンです。医療人類学という分野を大きく発展させた重要な人物です。彼は認知症になった奥さんのケアの経験を綴った本を出したんですね。「ケアの魂」という本だったと思うんですが、それがとてもいいんです。医療人類学という分野を極めて、精神科医として著名な人物が、奥さんを介護する中で「ケア」をどのように捉え直したかということが切々と伝えられています。老々介護というラベルを張るのはいいんですが、そのラベルの中にいろいろな老々介護があることを、我々が理解してケアに当たることが重要です。事例の発表ありがとうございました。」

 

家庭医療セミナーでは多くの方のご参加をお待ちしております。興味をお持ちの方は下記までご連絡ください。

次回開催予定:6/16(木)19:00~20:00

当セミナーへの参加につきましては、
 かしま病院地域連携課
  TEL:0246-76-0350
  Mail:kashima.hospital@gmail.com
までお問い合わせください。

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