家庭医療セミナー in いわき~実践家庭医塾Online~ 2021年11月

令和3年11月18日(木)第124回家庭医療セミナーを会場とオンラインのハイブリッド形式で開催しました。

今回は2つの事例を基にして学びを深めていきます。

事例発表①

発表者:いわき市医療センター 初期研修医 松田理花先生

78歳女性の症例です。独居で糖尿病を持っています。

自宅での血糖コントロール不良により、その管理をするために入院予定となりました。
しかし患者さん本人は、「家で好きなものを食べて好きなように生活したい。」と訴えて入院を拒否しました。最終的には外来フォローしつつ、施設入所を含めた環境調整を進める方針となりました。
患者さん本人は認知機能の低下により、食事や服薬管理が困難な状況であり、独居を継続するのが難しくなってきています。

この事例を基にグループディスカッションです。
このように、医学的介入が難しい患者さんに対して、どのように対応していけばよいのかを討議します。

グループごとの発表では、

・認知機能が低下しているので、入院に対する正しい知識を持っていなかったり、ケアハウスがどんなところなのか正しく理解しているのかなど、本人がきちんと意思決定できているのかを見極める必要がある。もし意思決定が難しい場合、長男やお嫁さんに歩み寄っていただいて意思決定していくのが望ましい。天涯孤独で後見人がいない場合、医療者として正しい方向に調整していく必要がある。

・認知機能障害があり活動性が高いので、施設入所して管理してもらうのが本人のためになると思う。在宅生活を続ける場合、服薬やインスリンの管理などをして、DKAにならないように気を付ける。息子が遠方に住んでいるので、施設入所してもらいたいと思っているのではないか。家族と本人の関係性も知る必要がある。

・本人が、人生の最期をどうしたいと思っているのかが重要。認知症と糖尿病を持っており、予後は長くないことが予測される。本人は医学的管理を望んでいないので、今後起こりえることを具体的にイメージできるように伝えて、方針を決めていく。その上で本人が自宅で過ごしたいというのであれば、それをサポートしていく。

という意見が挙がりました。

司会の石井先生からは、
「この方にとって糖尿病の治療は、本人のニーズとかけ離れているのでうまく進まないように見えます。糖尿病があっても、現時点では本人にとっては痛くも痒くもないため治療を受けたいと思っていません。発想を変えて、これを機に家族を交えたACPのチャンスにするのもありだと思います。無理に介入するのではなく、今後何かあったときにすぐに対応できるように準備をしておくことも重要だと思います。」
というコメントがありました。

最後にディスカッションを終えて、松田先生からのコメントです。
「次回の外来受診はこれからなので、どういう方向に進んでいくのかまだわかりません。今回は、医師として何とか医療的な介入ができないかと思い事例を提示しました。皆さんのご意見を聞いて、医療的な介入がどうしても本人の意向に沿わないこともあるのだと思い、無理に介入するよりも何か起きた時にすぐに気づけるようにアンテナを張るなどの方法もあると勉強させていただきました。」

 

事例発表②

発表者:かしま病院 総合診療科 藤井慎之介先生

妻は他界し、子供が3人いますが全員遠方に住んでいます。
発症前は杖歩行で、その他の動作は自立していました。

高齢の方ですが、認知機能はかなり保たれている状態です。

ここでグループディスカッションです。
本症例のように、患者さんと家族の希望に相違があった場合、どのように方針を定めていくかを討議します。

ディスカッション後のグループごとの発表では、

・今後の方向性については、本人と家族の希望によると思う。本人の希望であれば自宅退院を支援したいが、排泄の問題などがあり厳しいかもしれない。いずれにせよ医療者側ではなく、本人、家族が話し合って決める必要があるので、病院として少しでも話し合いを促して方向性を決めるべきだと思う。
97歳まで住職をしていた本人の生死観がどのようなものなのか気になる。それが方向性を決める糸口になるかもしれない。

・患者がなぜそこまで自宅に戻りたいのかを確認したい。家族が患者さんについてどう考えているのか。長い期間住職をしていたので、可能であれば自宅で過ごせる環境調整をしていく。お寺なので、檀家にも協力してもらうなど、様々なサポートを受けながら生活できると理想的。

・施設に入りましょうと言われて、わかりましたという人はほとんどいない。中には子供に迷惑をかけたくないから施設に入るという人もいるが、自分自身も素直にうなずけないと思う。子供としては、施設に入ってもらった方が安心だと思うので、意見の相違が出るのは当たり前のことだと思う。ある程度の年齢になったら、施設に入って最期を迎えるのが当たり前になるような文化ができると安心できる。

という意見が挙がりました。

最後に藤井先生から、その後の経過について話がありました。
家族に繰り返し病状説明の機会を設けて、本人の希望である自宅退院の方向で話を進めていきました。その結果、介護士をしている長女がいわき市に戻って来て同居することになりました。介護サービス等を調整して、最後まで自宅で生活することになっています。
皆さんからの意見で挙がった、ACPや本人の生死観などは突き詰められていなかったので、今後意識していきたいと思います。

 

二人の発表について、参加者からのコメントです。
「高齢だったり、認知機能障害があると、どうしても安易に施設入所の方向になってしまうことがあります。本人へのリスペクトが足りなくなることがあるので、しっかり考えなくてはならないと常々思っているところです。このようなケースでは多職種との連携が必要になります。連携に当たって医師がコンダクトするのはあまり良くないと思いますが、医師はここまで担保します、というこちらの懐を見せることで、協力してもらえる人が増えることが多々あります。貴重な機会をありがとうございました。」

最後に、葛西先生からの講評です。
「今日の2つの事例には共通の学びのポイントがありました。何かをしたいという意思表示をしたときは、『その人なりの理解』に基づいて意思表示していることと、意思表示には『その人なりの理由』があるということです。その『理解』や『理由』を尋ねてみると、ケアの方向性が見えてくることがあります。多職種の人たちもそのようなアプローチをとってくれるとケアの層が厚くなっていくことを学ぶことができました。松田先生、藤井先生、お二人ともありがとうございました。」

 

次回開催予定:2022年1月20日(木)19:00~

当セミナーへの参加につきましては、
 かしま病院地域連携課
  TEL:0246-76-0350
  Mail:kashima.hospital@gmail.com
までお問い合わせください。

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