令和4年1月20日(木)、第125回家庭医療セミナーをオンライン形式で開催しました。
今回は、当院にて初期研修中のお二人の先生より症例発表を行い、学びを深めました。
事例発表①
最初の事例発表は、東京慈恵会医科大学・研修医の宇野敢先生より「超高齢者の関節疾患の一例を通して」という内容で行いました。
患者は95歳女性で息子夫婦・孫と同居、発熱と左膝・足関節痛の疼痛増悪により体動困難となり救急車で近医を受診。その後精査目的で当院に転院搬送されました。
発症前は要介護1で、車椅子で自走可能。ADLは軽介助を必要とするのみで比較的自立していました。
採血、左膝・足関節レントゲンの結果より偽痛風と考え、また体動困難であり加療目的に入院となりました。
入院後経過として、来院時は意識清明でしたが入院2日目でせん妄をきたし、落ち着きなく息子の名前を呼んだりオムツいじりをする様子が見られました。
また、入院時からリハ介入していたが、偽痛風・入院によるADL低下も見られました。結果、今後も常に見守りが必要な状況であり、施設入所となりました。
ここで、退院調整に関して自宅退院を可能とする解決策について、グループに分かれてディスカッションを行いました。グループ毎の発表では下記のような意見が挙がりました。
・何をサポートしたら家族が自宅で看ていくことができるようになるか、そういったことを考えてサービスの導入や支援していくことで、家族も満足感というか達成感があるようにできるのではないか。それにあたってもう少し家族の状況を知るとか、本人のADLや認知機能について、「以前はどうだったのか。そしてこれからどの程度回復しそうなのか?」、そのあたりを家族にも示せるとよい。
・患者さんの希望を鵜呑みにしてそのまま自宅退院にもっていっても、結局ご家族が負担に耐え切れずにまた入院するなどのケースも考えられる。最終的に落としどころとしては、例えば老健などに入所していただいてそこでもリハビリを継続し、経過が良ければ自宅退院の余地も残すといった案が考えらえる。
・家で看れそうかどうかは、医療者側ではなく患者本人と家族が主。もし家族が心が折れててお手上げなのであればどうしようもない。
結語として宇野先生より、「自宅退院には様々なハードルがあり、患者の意とそぐわない退院となることもあるでしょう。この症例も施設退院となってしまいましたが、施設入所中にADLの向上、また周囲の環境の配備を行えば在宅復帰も可能ではないかと思います。今後高齢者社会が進むにつれてより深刻化する問題であると思いますので、今回症例にさせていただきました。」として締めました。
事例発表②
続いての事例発表は、いわき市医療センター・初期研修医の市川恵子先生より「アルコール依存症に糖尿病を合併した一例について」という内容で行いました。
患者は68歳男性。妻と二人暮らしで娘が近くに住んでいます。主訴は、口渇、多飲多尿、右目の視界が赤く見える、ふらつき、力の入らない感じがある(右優位)とのことでした。昨年9月から右優位で茶碗や箸が上手く持てず力が入らない感じが出現し、トイレにも自分で行けなくなりました。ADLとしては車椅子となり、失禁があるため普段からオムツを着用しています。
病院嫌いで長年医療機関を受診しておらず、妻も受診を進めていましたが拒否。今年の1月に娘に説得され、当院を受診することになりました。
ここで、患者さんの状態は安定してきたため退院の話を進めていくことになりますが、退院後も治療を継続する必要があります。しかし、医療機関に苦手意識があり病識も薄いという問題があり、退院に向けて今後はどのようなサポートが必要になるか、グループに分かれてディスカッションを行いました。グループ毎の発表では下記のような意見が挙がりました。
・患者さんは68歳ということで、仕事をしていた人なのか、もしくは現在してないけどどういう職業なのか。本人が治療を受けたいのかどうかを確認しないといけない。それからインスリンは離脱できそうなのかどうか。家族が、患者がお酒をたくさん飲んでいることについてどんな認識なのか。それがないと、ケアとの連携が難しい。また、徐々に相手の理解は確認しながら治療を進めた方がいい。
・薬物依存の方に対する社会的なサポート体制が現実的に日本になかなかない。欧米もなかなか難しいのかもしれないが、そういった社会的なサポートがないと、こういった方々が疾患の根本的な原因や社会生活から離脱していくような理由から復帰できるような仕組みが取れない。そこの問題に尽きるのかなとも思う。
・ご本人がある程度理解できるレベルまで物事をかみ砕いて話しをするなど、本人が出来る妥協点を見いだすことが現実的。
結語として市川先生より、「アルコール依存症治療では検査で明確に分かる問題はほんの一部分であり、社会的な痛みやスピリチュアルペインなどの言語化が難しい問題が水面下にあるため、患者さんやご家族と信頼関係を築くことが治療に不可欠だと感じました。本症例を通じて、医療機関の受診継続が困難な患者に対し、どのようなサポートができるかを学ばせていただきました。」として締めました。
お二人に対して、中山大理事長からのコメントです。
宇野先生に対しては、「FIMの問題点は結構ある。FIMは総合評価なので点数で評価すると難しいが、ご高齢の方の場合、食事に関する問題と排泄に関する問題が自立できるかできないかは、在宅復帰に際してとても重要なファクターになる。FIMの中でもどのファクターかに注目していくとよいかなと思いました。」
市川先生に対しては、「薬物依存の患者さんへの介入はとても奥深いが、一筋縄ではいかないのが現実的な社会である。ぜひ機会があればこういったものを経験していただいて、社会的なシステムを含めてですけど改善に寄与できるように今後も関わっていただけると(良いなと)。いろんな診療科や立場での介入があると思いますが、社会的に日本が欠落しているものに関心を持っていただくといいのかなと思いました。」
最後に、石井敦先生からの講評です。
「ほんとに難しい問題について提示していただきました。誰がみても難しい中でどんなことが出来るだろうかと考えるのはすごく重要なことですし、非常にいい学びを与えてもらったと思います。お二人ともありがとうございました。」
次回開催予定:2022年2月24日(木)19:00~
当セミナーへの参加につきましては、
かしま病院地域連携課
TEL:0246-76-0350
Mail:kashima.hospital@gmail.com
までお問い合わせください。
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